毒々ミニチュア館管理人の本棚より;『のど奥深く』早見純  単行本「美しき屈折」より

血まみれ悦っちゃん」と同じく1980年代前半の作品である。

雨の降る中、貧乏じみたアパートの一室を訪れ、正体不明の男に寄り添う17歳
の少女に「さあ帰ろう」と呼びかけるその父親。 少女は父親の説得をきかずに
正体不明の男と性行為に耽る。「私、このオジサンが大好きなの・・・」

自分の娘に性交をみせつけられたうえ「あなたたちみたいな家族と一緒に暮す
のはもういや」「私は17年間笑顔を無理に・・・」とまで聞かされ頭の混乱した父親
は「わけがわからない・・」とその場を後にする。茫然と帰路につく父親は踏切りで
電車に轢かれてしまい顔面を粉砕し臓物を撒き散らして惨死する。

男の傍に常に離れずいる少女は虚ろな目をして「うふふふ・・・みんな嫌いよ・・」
と囁く。次の瞬間男の顔がこわばり、少女の鼻腔と口から指が突き出る。
男の指である。 少女の背中に穿った穴から右腕を潜り込ませ「のど奥深く」から、
死んだ少女の頸・顎・舌を操り
腹話術で少女の父親と対話していたのだ!

少女の顔面を「のど奥深く」からぶち壊し「大っ嫌いよ!」と自ら言葉を発する男。
いったいどんな思いゆえに彼は右手に力を込め少女の顔面を醜く歪めたのだろう・・
男はさいごに 少女の血をたっぷり吸った右腕を部屋の空気に晒し恍惚となる。



男が少女の死体を通じて発する「みんな嫌いよ・・・大っ嫌いよ!」との言葉。
彼のその心の荒廃と寂寞が管理人にはとてもよくわかるような気がする・・・
いや架空の世界の彼ではなく、この漫画を描いた作者の胸の内に深く共鳴
してしまう・・・他人事とは思えない、悲痛で強い心の訴えだと感ずる。同時に
いったい何がそうさせているのだろうとも思ってもしまう・・・。

ある超有名な作家は「小説でも書いてみようかと思う人は 必ず内部に異物を飼って
いる・・・・・・」と語っていた。 それは小説でも、漫画でも、絵でも、造形や映像でも
何でも、ものをつくりたい・表現したいという意志の備わった人種に特有の属性を言い
当てている、もっともなものだと思う。
 
管理人の場合はエロ黒い絵だが その創作に向かうとき己のなかの真っ黒い醜悪な
異物の存在を鮮明に意識し気味わるくなったりもする。
それが確かに「嫌い・大っ嫌い・何もかも」と呟くのだ・・その不気味さに無自覚なまま、
邪悪な創作の歓びに浸り昂ぶって絵を描きあげれたらよいもの、鬱に転じ最悪な気分
になる事もある。 しかしその存在が根底になしに 絵を描きたい・描くんだという情動
が沸くことはなかろう。

この漫画を再読し深く考えてしまった・・・・これを立ち読みした高校生の時はただ、
すごい描写に喜んで友達とキャーキャー騒いでいただけだったのだが。